超音波ガイド下神経ブロックの基礎研究において,我々は献体者の解剖をさせてもらっている。献体者は解剖する医師個人のためだけでなく,多くの患者の治療のために献体してくれている。解剖で得た新しい医学知識や技術は皆で共有する義務がある。ここで今一度,解剖学研究の倫理を考える。

1900年,新渡戸稲造は日本人の道徳精神を世界に紹介するために「BUSHIDO: The Soul of Japan」を刊行した。この「武士道」から解剖学研究の倫理を考える。


武士は「礼儀:politeness」「仁徳:benevolence」「正義:justice」「誠実:sincerity」「勇気:courage)」「忠義:The duty of loyalty」「名誉:honour」の7つの要素を重んじた。「礼儀」は相手を尊重し思いやる心であり,武士道は礼に始まり礼に終わる。


「仁徳」は人間としての思いやり,「正義」は人間としての正しい道である。「仁徳」・「正義」は善悪の判断力を知識として教えることができる。


「誠実」は言ったことを成す行動力,「勇気」は正義を貫く行動力である。「仁徳」・「正義」としての知識と「誠実」・「勇気」としての行動力はどちらも同等に大切である。これを陽明学では「知行合一」という。


「知行合一」を実行するためには自分自身で考えることが大事である。「忠義」とは主君に媚びへつらう事ではなく,自分自身の「正義」に忠誠を誓うことである。主君の行動に過ちはないか疑問を持ち,もし主君に過ちがあれば命をかけて忠告する。「名誉」とは自分自身の「正義」に従って行った結果に得られる評価である。自分自身の行動に恥はないか疑問を持ち,高潔な生き方を貫くために行動する。



江戸時代には「士農工商」の身分階級があり,武士の身分は高かったが収入は低かった。明治維新後に身分階級はなくなったが,医師は患者に対して「noblesse oblige」=「高貴なる者に課せられた義務」がある。献体者は解剖する医師個人の知識や技術向上のためだけでなく,多くの患者の治療のために献体してくれている。解剖で得た新しい医学知識や技術は皆で共有する義務がある。